Source: はじめての第二言語習得論講義

< 前章 | 次章 >

1. 文法重視からコミュニケーション重視へ - 第二言語教育法の変遷

1.1. 明示的学習と暗示的学習

  • 明示性の程度(degree of explicitness): 学ぶべきポイントをどれくらいはっきりと明確に示すか
    • 明示的学習(explicit learning): 文法項目などをはっきりと伝える方法
    • 暗示的学習(implicit learning): 明確には伝えず、実践を通じて結果的に身につけていく方法

数学や歴史など、教育現場では明示的学習がほとんどで、暗示的学習は重視されなかった。 ただし、母語が暗示的に習得されるという理由から、外国語教育は暗示的学習について模索してきた。

1.2. 文法訳読式教授法

文法訳読式教授法(Grammar Translation Method): 文法ルールの理解を重視し、リーディングテキストを母語に訳しながら進める教授法

19世紀のドイツでは、ラテン語を文法訳読式教授法で教えていた。ラテン語で会話をするという状況は想定されておらず、ラテン語の文献を読む力を身につけることだった。このように、対象言語を使ったコミュニケーション(話し言葉)を目的とせず、書き言葉を対象としている場合には有効な方法。

1.3. オーディオリンガル・メソッド

オーディオリンガル・メソッド (Audiolingual Method): 文法訳読式に対し、話し言葉を身につけるために始まった方法。行動主義を理論的基盤として誕生。「刺激→反応」による習慣形成を第二言語教育に応用する試み。

  • 教師: I play tennis.
  • 生徒: I play tennis.
  • 教師: You!
  • 生徒: You play tennis.
  • 教師: He!
  • 生徒: He plays tennis.

他には”I, my, me, you, your, you, he, his, him…” もオーディオリンガルメソッドにあたる。

何度も繰り返すことによって第二言語で反応できることを目指すため、「丸暗記学習(rote learning)」とも呼ばれる。

1.4. コミュニカティブ教授法

コミュニカティブ教授法(communicative language teaching: CLT): コミュニケーションに参加することが、第二言語習得を促進するという考えに基づく教授法。形式面の正確さよりも、まずは意味を伝達し、コミュニケーションの目的(「機能」(function))を達成できる能力を身につけることが目的。

CLTの大きな特徴は、文法項目に基づく「言語的シラバス(linguistic syllabus)」から「概念や機能に基づくシラバス(notional-functional syllabus)」に移行していること。

例:

  • CLT以前:授業のシラバスが現在形現在進行形
  • CLT: 自己紹介での挨拶を行う買い物に行く

背景として、多くのSLA研究者がコミュニケーション能力を重視する姿勢に変わってきたことが影響している。

用語解説

SLA では、言語は次の3つの要素から成り立つと考えられている:

  • 形式(form): どのような綴りや発音で表すのか、どのような文法ルールを持つのか。
  • 意味(meaning):「形式」が表す内容。
  • 機能(function): 言葉を使って達成しようとする「コミュニケーションの目的 (communicative function)」。時と場合や相手によって、どの英文を使用するかが変化する。

2. 再び文法重視へ

2.1. シュミットの「気づき仮説」

気づき仮説(Noticing Hypothesis): リチャード・シュミット(Richard Schmidt)が提唱。まわりから得られるインプットの言語的特徴に気づくことが第二言語習得には不可欠という説。「気づき」とは、ある言語的形式に意識を向けること。

気づきの機会は、学習者自身が自分で気づく場合もあれば、対話者の言葉や教室での活動がきっかけになる場合もある。気づきの機会を増やすには、言語的知識を持つ必要がある。

そのため、文法訳読式のような明示的教授法を学ぶことにも効果があるといえる。

2.2. フォーカス・オン・フォーム

フォーカス・オン・フォーム(focus on form: FonF): コミュニケーション重視の授業において「付随的」に発生した言語的形式に、学習者の注意を向けさせる方法。明示的方法と暗示的方法の中間に位置する。

意味重視のコミュニケーション活動を行っていることが大前提で、その活動から発生した言語的問題に「コミュニケーションを阻害しない」ように学習者の注意を「付随的に」向けるように誘導する。

FonFの背景には、ビルトイン・シラバスの伝統がある。学習者は教師やテキストとは異なる「内的シラバス」を持っていると考えれば、学習者本人にとって必要な言語形式こそが、習得する準備の整ったものと考えられるから。

フォーカス・オン・フォームの実践 - リキャスト

リキャスト(recast): 教師が生徒の発話から問題点を「暗示的に」投げかける方法

  • 教師: Do you know what Stephen is doing?
  • 生徒: He vacation.
  • 教師: He’s on vacation.
  • 生徒: Yeah, on vacation.
  • 教師: I see.

教師が明示的な方法で “No, you should say, he’s on vacation. OK?” と説明することもできるが、あくまで暗示的に提示することで会話の流れを途切れさせることなく、学習者自ら気づくように促すのがねらい。

3. タスク中心アプローチの登場

3.1. 「タスク」とは?

「タスク」について、SLA研究でおおよそ合意されている特徴は以下の3つ

  • タスクとは「ホリスティックな活動」である
  • タスクは達成すべき課題を持っている
  • タスクはフォーカス・オン・フォームと融合している

タスクとは「ホリスティックな活動」である

音声、語彙、文法などのさまざまなレベル・レイヤーに分割することなく、コミュニケーションのためにすべてを統合して使用する。 例えば、穴埋めや並び替え問題は、ホリスティックな活動にはあたらない。

また、スピーキングだけでなく、読み書きも活動のなかに含める。そのため、タスクではS&W, L&R のような区別はあまり意味を持たない。

タスクは達成すべき課題を持っている

生徒が課題を達成するようにデザインされ、そのために言語を使うのがタスク。 言語を使うことが目的(ends)ではなく、あくまで手段(means)という扱い。

学習したフレーズや語彙を使って言葉のやりとりを練習するだけでは達成すべき課題がないので、タスクではない。

タスクはフォーカス・オン・フォームと融合している

タスクでは、学習者はまずコミュニケーション活動に取り組むが、その最中にタスク活動から生じた言語の形式面へ注意を向けるような要素が含まれている。 タスクの中に言語形式面へ注意が向けられるように仕組まれている場合もあれば、リキャストのようにタスクを行っている過程で学習者が自分で注意を向けるように誘導される場合もある。

3.2. タスクの例 - “Things in pockets”

省略。詳細は本を参照。

3.3. 「ワークプラン」と「プロセス」

  • ワークプランとしてのタスク(task-as-workplan): 教師やタスク設計者が考えたタスク
  • プロセスにおけるタスク(task-in-process): 実際に教室で使われたときの生徒たちの反応

ヴァージニア・サムーダ(Virginia Samuda)は、タスク中心アプローチにおいて、生徒たちが設計された通りにタスクに取り組んでくれるわけではない問題を提示した。

批判されながらも文法訳読式教授法が世界中の教育現場で使われ続けるのも、文法訳読式は教師がコントロールしやすい。一方、自由を与えるタスクでは、準備したワークプラン通りにプロセスが進むとは限らない。

3.4. スナップショット・アプローチ

タスクを長期的に実施したときに学習者の第二言語がどのように発達するか十分に検証されていない。1回または数回だけの実施で効果を測定したものがほとんどであり、「スナップショット・アプローチ(snapshot approach)」とも呼ばれる。

3.5. エコロジカルアプローチから見たタスク

タスク中心アプローチは、さまざまな認知的アプローチの研究成果のもと発展した。しかし、ワークプラン/プロセス問題、つまり「理論」に基づきワークプランを設計したとしても、「実践」した場合に必ずしもプロセスが期待通りに進むとは限らない。

このワークプラン/プロセス問題を乗り越える手がかりとして、エコロジカルアプローチからタスクを考えてみる。

エコロジカルアプローチの重要な概念の一つに「アフォーダンス(affordance)」というものがある。アフォーダンスとは、「環境によって提供された活動の機会」を指す。 アフォーダンスは、主体のなんらかの行動を引き出すもの。しかし、決して行動を強制したり、限定するものではない。

3.6. アフォーダンスとしてのタスク

著者らは、大学1年生に同じライティングタスクを1年にわたって繰り返し実施した結果、一人一人の学習者はまったく異なる発達ルートを経て英語ライティング力を発達させたことを発見した。認知的アプローチが期待する均質的な効果が得られたわけではないが、エコロジカルアプローチの視点からみると、多様な発達パターンが生まれたといえる。